楽譜作成ソフトウェアの様々な可能性の一つに、出版譜には通常見られないイレギュラーな楽譜を「自分仕様」として自由に創り出せることがあります。
今回は特にピアノ講師の方に向けて、予め作成したピアノ譜ファイルを初心者向けピアノ教材にアレンジする方法を、事例として取り上げてみます。
アレンジ元の曲としては、F. ショパンの「Preludes Op.28-7 in A Major」※を使ってみます。これはBPM=96前後のゆったりしたテンポで演奏される、16小節・演奏時間1分間程度の小作品ですが、とある医薬品のCMでも使用されており、クラシック・ピアノに親しみがない人でも聞き覚えがあるかも知れません。
※ショパン作品をはじめ、PDのクラシック曲の中にはネット検索でMIDIファイルなどを無料入手できるものも多くあります。内容の正確さは要確認ですが、それらを楽譜作成ソフトウェアにインポートすれば、最初から全てを自分で入力する必要はなくなるので、ファイル作成の作業は大幅に省力化できます。
また、楽譜作成ソフトウェアを購入すればサンプルで多くの楽譜ファイルがおまけとして付属している場合もあります。今回使用した「Preludes Op.28-7 in A Major」も、少し手直ししていますが、元はFinaleに付属のサンプル・ファイルです。
この楽譜を、今回はFinaleを使って以下のようにアレンジしてみます。
内声を省略し、メロディとベースラインのみを残す。
キーを演奏し易いものに変更する。
五線を拡大し、読み易くする。
符頭を階名付きに変更する。
1.内声を省略し、メロディとベースラインのみを残す。
Finaleには、コードから特定のヴォイスのみを抽出する機能があります。これを使いメロディとベースラインのみを抽出すると、結果として内声を省略した状態に変更できます。
2.キーを演奏し易いものに変更する。
読譜の経験が浅い学習者のために、シャープの数を減らしつつ、フレーズがなるべく五線内に収まり、加線をなるべく使わずに済む音域に移調します。今回は原曲のkey in Aをkey in Gに変更し、さらに低くなり過ぎてしまったベース音の一部をオクターブ上に変更してみました。
3.五線を拡大し、読み易くする。
子どもや老眼の学習者のために、組段全体を拡大してみます。今回は165%に拡大してみましたが、設定直後は組段が大きくなった分、最初のページに収まり切れなくなった組段が2ページ目以降に送られた状態になります。
このレイアウト修正は基本的に手動で行う必要があり、おそらくこれがこのアレンジ中で一番、ソフトウェアの使用知識を求められ、かつ手間が掛かる作業となるでしょう。今回は以下の処理を施しました。
ページ・マージンを上200、下240EVPUから、両方とも120EVPU※まで狭めて、大きくした組段を収めるためのスペースを可能な限り広く確保する。
高音部譜表と低音部譜表の間隔をギリギリまで狭め、組段一つあたりのスペースを節約する。
スラーや指番号、ペダル記号などを五線に近接させ、組段マージンをギリギリまで狭める。(指番号は新しいキーに合わせて予め変更しておきました。)
※EVPUは小数点を使わないFinale独自の計測単位で、1EVPU ≒ 0.09mm、120EVPU ≒ 10.8mmです。
処理後は、例えばこのような形になります。
4.符頭を階名付きに変更する。
Finaleには、符頭を階名付きのものに変更する機能があります。楽譜スタイルから「Finale AlphaNote 階名の適用」を選択すると、このような仕上がりになります。
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以上で完成としても構いませんが、さらに音符をカラー符頭にすることもできます。Finaleでのカラー符頭の初期設定はこちらにある通りで、これはユーザー設定により色の変更も可能です。
原曲と比べるとやや音域が上がってしまいますが、調号を使わないKey in Cにキーを変更した上で、初期設定状態のカラー符頭を適用すると、このような譜面となります。
上記の作業はソフトウェアの機能を用いて半自動で出来る部分が多いので、例えばFinaleであれば、慣れれば20分間ほどで完了します。
前述のようにPD曲は既存ファイルをMIDIデータなどの形式で無料で入手できることも多いので、それらを収集しては加工し、教材のネタとしてストックしておくのも良いかも知れません。
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