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Doricoで表現するギターのハーモニクス奏法

更新日:8月18日

2024年3月に「楽譜作成ソフトウェアにおけるギターのハーモニクス奏法の表現比較」という記事を書きましたが、この時はFinaleが中心でDoricoのことはあまり書いていませんでしたので、今回はDorico Pro 6を中心に取り上げ、その機能をもう少し深掘りしてご紹介してみようと思います。


思えばFinaleは、ギターについて言えば、通常の音符からなる譜表 (※1) を書くにあたっては、さすがは出版譜制作の世界標準としての抜群の強さを発揮したものの、タブ譜の機能は驚くほど最小限に留まっていました。(※2)


※1:以下、これを「音符の譜表」と呼び、タブ譜と区別します。

※2:例えば通常の譜表とタブ譜の内容が自動リンクしていなかったり(そのせいで日本式タブ譜を書くのは得意でしたが)、白玉音符の囲み図形は自作したものを手動で貼り付けなければならなかったり、ハーモニクスに小数点の数字を使えなかったり、といった仕様でした。これはFinaleがタブ譜を使う音楽ジャンルを主要なターゲット市場としていなかったことが理由だったのかも知れません。


ギタータブ譜と言えば、伝統的にGuitar Proが圧倒的な強さを誇っていましたが、Doricoのタブ譜機能も、まだ発展途上な面がありますが、なかなかのものです。特にハーモニクスの扱いについては、既にGuitar Proを超えているかも知れません。


【目次】


ーーー


1.さまざまなハーモニクス奏法の表現


2024年3月記事で扱ったDoricoシリーズ製品はミドルクラス製品のElementsと無料製品SEでしたが、これと同じ譜例をDorico Pro 6で書いた場合をみてみます。


こちらがDorico Elementsで作成した譜例です。


Dorico Elements 5で作成した譜例
Dorico Elements 5で作成した譜例

こちらがDorico Proで作成した譜例です。ProにはElementsにはない浄書オプションダイアログが搭載されており、このダイアログにて、符尾の接続位置の設定や、白玉音符にてタブ譜の数字に囲み図形を追加することができます。


Dorico Pro 6で作成した譜例
Dorico Pro 6で作成した譜例

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2.自然ハーモニクス


Doricoでは、音符の譜表に自然ハーモニクス(Natural Harmonics)を入力すると、そのノードの位置がタブ譜上に自動的に表示されます。


フレットの直上にないノードは小数点でその正確な位置が表示される点が、タブ譜の数字として整数しか入力できなかったFinaleとは大きく異なる点です。


こちらの譜例は、ノーマル・チューニングのギターとベースの自然ハーモニクスを低音から高音に並べたものです。


概ね2フレット以下の自然ハーモニクスはあまり実用的ではありませんが、Doricoでは最高で1.1フレット・ポジションまでの自然ハーモニクスを自動表記させることができます。


Doricoでは、ハーモニクスのノードが小数点を伴う場合も含め、タブ譜に自動表示される
Doricoでは、ハーモニクスのノードが小数点を伴う場合も含め、タブ譜に自動表示される

3倍音以上の自然ハーモニクスは複数のノードを伴いますが、Doricoでは最大16次までのノードを扱うことができます。


以下の譜例は、複数のノードを持つ自然ハーモニクスについて、E弦、A弦上でのノードの一覧を示したものです。上級者のギタリストは経験的にその微妙な位置を体得して来たかも知れませんが、それをこのように数値化すれば、初心者でもその原理を容易に理解し、弾けるようになります。


Guitar Pro 8でもこのような小数点を用いた自然ハーモニクスのノードの自動表示が可能ですが、その範囲は実用的な8倍音までに留まります。


Doricoが表示可能な11倍音などはあくまで理論上のものかと思いますが、もしかしたら物理の授業などに応用できるかも知れません。


Doricoでは、自然ハーモニクスのノードの微妙な位置を小数点で把握できる
Doricoでは、自然ハーモニクスのノードの微妙な位置を小数点で把握できる

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3.人工ハーモニクス


Doricoでは、ギターの人工ハーモニクス(Artificial Harmonics)を、タッチ・ハーモニクス (※1) 、ピンチ・ハーモニクス (※2) など、合計4通りで表現できます。


※1:これは撥弦側の人差し指でノードに触れて薬指や小指で撥弦する演奏法ですが、ディストーション・ギターなどではタッピング・ハーモニクスとして演奏することも可能です。

※2:日本ではピッキング・ハーモニクスと呼ばれる演奏法ですが、英語圏ではPinch Harmonicsという用語が一般のようで、Doricoもその表記を用いています。


Doricoでは、人工ハーモニクスを4通りの記譜法で表現できる
Doricoでは、人工ハーモニクスを4通りの記譜法で表現できる

タッチ・ハーモニクスはヴァイオリンなどの伝統的な記譜法に倣い、押弦側の小指で触れるノードの位置を菱形符頭で示しているため、演奏上のピッチが上がるに従って記譜上のピッチは逆に下降するという、ちょっと不思議なことが起こります。



この記譜法だと、押弦する音符とタッチする音符の音程が2度の場合は音符の譜表上では書き分けができなくなるので、その場合は図の左下にある「1つの符頭(演奏上のピッチ)」に別ボイスで押弦する音符を追加するか、あるいは右上のピンチ・ハーモニクスとして表記しても良いかも知れません。


ーーー


Finaleでは小数を用いた正確なハーモニクス・ノードの表現が不可能だったため、ギタータブ譜で高次のハーモニクス・ノードの位置を表記する際、例えばフレット上のノードの位置「3.9」を便宜上「4」と表記した上で、「4フレット上より少しだけナット側」といった説明文を加えた出版物が多かったように思います。


制作ツールの技術仕様がクリエイティヴに影響を与える事例は良くありますが、これはタブ譜に小数点を使えなかったFinaleが楽譜出版業界の標準ツールであった故にタブ譜のハーモニクス・ノードを全て整数で書くのが残念な常識になってしまったと思われる点において、制作ツールの仕様上の制約が成果品としての楽譜にネガティヴな影響を与えた事例の一つのように思えます。


楽譜出版業界の標準ツールは、ソフトウェア業界側の事情でFinaleからDoricoに強制的に切り替わっているところですが、Doricoにより小数を用いたハーモニクス・ノードの表記が新たな常識となることで、ギター譜がもっと理解し易いものに進化することを期待しているところです。


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