top of page
執筆者の写真tarokoike

高度な編集に向けたDoricoの機能:Finaleの道具箱ツール&プラグインとの比較

Finaleでは、音符や連桁など記譜要素の形状や位置を個別に編集する機能が極めて充実しており、これらは基本的に道具箱ツール内の各種専用ツールやプラグインとして利用可能でした。


今回の記事では、Finaleにあったこれらの道具箱ツールやプラグインの機能を中心に、高度な編集に向けたDoricoの機能をFinaleのそれと比較してみます。


なお、これは何かの機能の有無を以て製品の優劣を判断することを意図していません。一般的な観点からは、ユーザーが殆ど使わないような「余計な」機能を沢山搭載するほど、ソフトウェア全体の使い勝手が悪くなる場合もあるためです。


【目次】

3.機能ごとの比較

3-7.タイ


ーーー


1.比較対象とした機能と、比較結果


今回比較対象とした機能と、その比較結果は以下となります。

Finale

Dorico

音符配置ツール(音符を水平方向に移動する)

あり

符頭変更ツール (別の符頭の形を選ぶ)

あり

符尾調整ツール(符尾の長さを調整する)

あり

符尾方向ツール(符尾の方向を上または下に固定する)

あり

符尾逆向きツール(符尾の位置を符頭の別サイドに変更する)

なし(図形機能での再現は可能)

連桁調整ツール(連桁の長さや角度を調整する)

あり

連桁伸縮ツール(小節線を超えて連桁を左右に伸ばす)

なし(図形機能での再現は可能)

タイ・ツール(タイの形状を調整する)

あり

連桁幅調整ツール(連桁の幅を細くしたり太くする)

あり

符頭微調整ツール(符頭を水平方向に移動する)

あり

臨時記号調整ツール(臨時記号を水平方向に移動する)

あり

不完全連桁ツール(分割された連桁の向きを変える)

あり

符尾重複・分割ツール(もう一つの符尾や分割符尾をつける)

あり

特殊符尾ツール(符尾を作成したり隠したりする)

なし(図形機能での再現は可能)

連桁分断ツール(16分音符以下の連桁を分断する)

あり

特殊連桁ツール(内側の連桁の高さや角度を調整する)

あり

付点ツール(付点を上下左右に移動する)

あり

連桁内符尾調整ツール(連桁内にある符尾の長さを調節する)

あり

プラグイン:簡易トレモロ

あり

あり

あり

プラグイン:加線を隠す

あり

プラグイン:コーダ切れの作成

あり

目次に戻る)


2.比較に用いた譜例


比較に用いたFinaleファイルはこちらです。


この楽譜をDoricoにて、MusicXMLインポートではなく新規作成ファイルから再現したものがこちらです。音楽フォントにはChaconne EXを使用しています。

目次に戻る)


3.機能ごとの比較


以下、最初の小節から順に細部を見ていきましょう。


3-1.符頭変更、連桁幅調整


  • 符頭変更ツール (別の符頭の形を選ぶ)

  • 連桁幅調整ツール(連桁の幅を細くしたり太くする)


符頭変更はDoricoの場合、基本的には音符を右クリックして現れるプルダウンメニューから変更しますが、そこにない符頭は符頭セットとしてユーザー登録が可能です。


この図の1小節目の上段にある符頭の一部は、前半はKousakuフォントから、後半はFinale Maestroに登録された符頭をユーザー登録したものです。Finaleではギターのブラッシング奏法などで多用されたKousaku 158番の縦長X符頭は、ここに示す通りDoricoでも使用可能です。


連桁幅調整ツールは、浄書モードの下ゾーンに設定項目があります。

目次に戻る)


3-2.符尾方向、符尾調整


  • 符尾方向ツール(符尾の方向を上または下に固定する)

  • 符尾調整ツール(符尾の長さを調整する)


符尾方向は右クリックに設定項目がありますが、選択してFキーを押すのが早くて楽でしょう。


Finaleの符尾調整ツールでは、符尾の長さだけでなく、実は符頭との接続位置も調整できます。Doricoの場合、符尾の長さは浄書モードで符尾に現れるハンドルをドラッグすることで調整しますが、符頭との接続位置は同様な調整ができません。これは任意の位置で符尾と接続する符頭をユーザー設定して登録することで表現可能です。

目次に戻る)


3-3.音符配置、特殊符尾、簡易トレモロ


  • 音符配置ツール(音符を水平方向に移動する)

  • 特殊符尾ツール(符尾を作成したり隠したりする)

  • プラグイン:簡易トレモロ


音符配置については、浄書モードの「音符のスペーシング」で調整できます。


トレモロについては少々分かりにくいですが、右ツールボックスの「反復記号」カテゴリにメニューがあり、そのスタイルは浄書オプションで設定可能です。


特殊符尾はFinaleのようにプリセットまたは自作の符尾から選べるという機能はなく、符尾を非表示にした上でライン・ツールで書き込む形となります。この場合、レイアウトの変更には追従しないので注意が必要です。


なお、この譜例の上段の前半にはステムレットを設定しています。Finaleの場合はステムレットを設定するための専用機能がなく、ファイル別オプションでユーザー設定する必要がありましたが、Doricoでは右クリック内のメニューに専用機能があり、個別設定が可能です。


目次に戻る)


3-4.連桁調整、連桁伸縮


  • 連桁調整ツール(連桁の長さや角度を調整する)

  • 連桁伸縮ツール(小節線を超えて連桁を左右に伸ばす)


連桁調整は浄書モードにて、Finaleと同様な感覚で設定できます。


連桁伸縮については、Finaleのような連桁の端のハンドルを掴んでドラッグで伸縮させるといった機能はなく、これもライン・ツールで自作して配置することになり、レイアウトの変更には追従しないので注意が必要です。


連桁伸縮ツールは、Finaleの場合は主に小節を跨ぐ連桁を自作する際に用いたと思いますが、これにはパターソン・プラグインという専用機能があるため、実際は殆ど使わなかったかも知れません。Doricoの場合も右クリックのメニュー内に小節を跨ぐ連桁を作成する専用機能があるので、連桁伸縮ツール的な機能は不要だったのであろうと思います。

目次に戻る)


3-5.小節途中の反復小節線、特殊連桁、符尾逆向き


  • プラグイン:小節途中の反復小節線

  • 特殊連桁ツール(内側の連桁の高さや角度を調整する)

  • 符尾逆向きツール(符尾の位置を符頭の別サイドに変更する)


小節途中の反復小節線については、Finaleのようにプラグインとしてではなく、一般機能の一つとして右ツールボックス内に該当項目があります。


特殊連桁は右クリック内にこれを設定する専用機能がありますが、ライン・ツールで自作することも可能です。譜例では、一番上の連桁は自作、下の3本は専用機能で作成しています。なお、3本の連桁の離れ具合は下ゾーンのプロパティで調整可能です。


符尾逆向きツール的な機能はDoricoにはありませんが、これは五線を跨ぐ連桁を自作する時以外は多分殆ど使用しないので、専用機能としては不要だったのでしょう。


敢えて逆向きの符尾を作成したい場合は、逆向きに符尾と接続する符頭をユーザー設定して登録するか、場合によっては符尾を非表示にしてライン・ツールで符尾を描き込むだけでも良いかも知れません。

目次に戻る)


3-6.連桁分断、符尾重複・分割、付点、和音内の符頭サイズ変更


  • 連桁分断ツール(16分音符以下の連桁を分断する)

  • 符尾重複・分割ツール(もう一つの符尾や分割符尾をつける)

  • 付点ツール(付点を上下左右に移動する)

  • プラグイン:和音内の符頭サイズ変更


連桁分断については、記譜モードの下ゾーンに設定項目があります。


符尾重複・分割ツールについては、Finaleの場合、このような表現はレイヤーを使った方が扱いが楽なので、同ツールは殆ど出番が無かったと思います。Doricoの場合はFinaleのレイヤーに相当する「声部」を追加することで、このような表記となります。


付点については、Finaleでは付点ツールで上下左右に移動できましたが、Doricoの場合は左右方向のみです。付点同士の間隔などは浄書オプションで設定可能です。


和音内の符頭サイズ変更については、下ゾーンに音符ごとにサイズを変更するための設定項目があります。

目次に戻る)


3-7.タイ


  • タイ・ツール(タイの形状を調整する)


タイの形状は、Finaleと同様な方法で調整できます。


なお、Finaleではユニゾン/オルタード・ユニゾンを表現する場合、符頭を小さくして左右に配置するなど、手動で表現を工夫する必要がありましたが、Doricoの場合は初期設定では譜例のように符尾が自動的にY字型に分割される仕様のため、そのような工夫は必要ありません。

目次に戻る)


3-8.臨時記号調整


  • 臨時記号調整ツール(臨時記号を水平方向に移動する)


臨時記号の位置調整は、浄書モードの下ゾーンに設定項目があり、Finaleのようにハンドルを掴んでドラッグではなく数値で設定します。臨時記号が左右の別の記譜要素に近づいた場合は一定間隔を保って全体のスペーシングが自動調整される点が、いかにもDorico的です。

目次に戻る)


3-9.符頭微調整、連桁内符尾調整


  • 符頭微調整ツール(符頭を水平方向に移動する)

  • 連桁内符尾調整ツール(連桁内にある符尾の長さを調節する)


符頭の位置を左右にオフセットさせたい場合、DoricoではFinaleのようにハンドルをドラッグして調整する機能はありませんが、オフセット値を設定した符頭をユーザー設定して登録することでこれを表現できます。


連桁内の符尾の長さを調整するには、浄書モードの下ゾーン>連桁>太さから調整が可能です。本来はすぐ下にある「分離」でこれを設定するものと思われますが、実際は「太さ」で長さが変わるので注意が必要です。


上記の操作では、符尾の長さは連桁側の範囲でしか調整できません。連桁の反対側に符尾を伸ばしたい場合、符尾の長さを0にした上でライン・ツールで描き込むのが良さそうです。

目次に戻る)


3-10.不完全連桁、加線を隠す、コーダ切れの作成


  • 不完全連桁ツール(分割された連桁の向きを変える)

  • プラグイン:加線を隠す

  • プラグイン:コーダ切れの作成


不完全連桁は下ゾーンに設定項目があります。加線を隠す場合も下ゾーンに設定項目がありますが、これは浄書モードを選択中のみに現れます。コーダ切れはDoricoの場合、自動的に設定されます。

目次に戻る)


ーーー


今回の調査により、Finaleに搭載された道具箱ツールやプラグインの機能のうち、主要なものは全てDoricoに搭載されていることが分かりました。


前回記事で書いたように、Doricoでは音楽フォントもFinaleクオリティのものが使用可能ですので、一般楽譜のみではなく特殊楽譜の制作や楽譜浄書といった分野でも、DoricoはFinaleの後継製品として活躍してくれそうです。

【お知らせ】

Finaleからの乗り換えを支援するDorico集中講座をZoomオンラインにて開催中。2期目となる2024年11月開講コースの開催が決定しました。詳細はこちらのページをご覧下さい。

bottom of page