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執筆者の写真tarokoike

海賊版ソフトウェア撲滅への取り組みとIMSTA FESTA

世界各国で定期的に開催される音楽テクノロジーの祭典、IMSTA FESTA。今年は弊社が、IMSTA FESTA Tokyo 2024の事務局を担当させて頂いています。


【IMSTA FESTA Tokyo 2024:イベント基本情報】



IMSTA(The International Music Software Trade Association、イムスタ、本部:カナダ・トロント)とは音楽ソフトウェア業界の利益を代表する非営利団体で、違法コピー(海賊版)の使用を減らすために、その流通に関する実態調査やソフトウェア著作権侵害がもたらす悪影響について啓蒙活動を行っています。


IMSTAおよび同組織が主催する「FESTA」の主要ミッションの一つは海賊版ソフトウェアの撲滅ですが、これは実際のところ、メーカーや代理店が以前から抱える頭の痛い問題です。今回の記事では、日本国内における音楽制作ソフトウェア海賊版の流通の実態と課題について考えてみます。



1.海賊版の流通を止められない理由


海賊版の流通を止められないことには、おそらく大きく分けて三つの理由があるように思えます。


(1)削除手続きの難しさ


一つ目の理由は、海賊版ソフトウェアの流通に対する規制や対策が結果として十分とは言い難いのではないかということです。


サイト運営者側も規制や対策を難しくする事情を抱えているものと推測しますが、代理店の立場では、海賊版の販売ページを見つけてもサイト運営者にその削除を依頼する手続きは簡単ではなく、たとえ削除依頼してもそれが認められるとは限らず、手間暇かけて対策を講じても効果が薄いということで結局は諦めてしまうケースが少なくないというのが実態と感じます。


(2)ディスカウント正規品や中古品との区別の難しさ


二つ目の理由は、ディスカウント販売される正規流通品や中古品と、海賊版の区別をつけるのが困難な場合が少なくないということです。


ソフトウェアによっては流通経路が多様で、新品でも開発元の直販サイトと比べると数分の1の価格で販売している場合もあり、一度そうした正規版ディスカウント品の存在を認識してしまうと、販売サイトに出品されている海賊版が正規版のディスカウント品と同じに見えてしまうことも多いのではと思います。


中古品については、ソフトウェアに付属するEULA(End-User License Agreement、ソフトウェア利用許諾契約)で中古販売が禁じられている場合が少なくありませんが、これに従わず販売されている場合もあり、ソフトウェアのバージョンに関する知識や認識が曖昧だと、やはりこれも海賊版との区別が困難となります。


(※デジタル・コンテンツの中古販売については違法・適法の区別が難しく、例えばビデオゲーム業界では中古品の流通について、ゲームソフト開発元と中古ゲームソフト販売店との間で長年の論争があり、2002年の最高裁判決で「中古ゲームソフトの自由流通は合法」の判決が下された事例があります。参考:「実に“素直”な最高裁判決!)!)中古TVゲーム裁判」、日経BP、2002年4月)


(3)エンド・ユーザーの意識


そして三つ目の理由としては、残念ながら「海賊版に対するエンド・ユーザーの意識の低さ」を挙げなければなりません。


海賊版の提供および使用は、著作権侵害にあたります。さらにこれらの行為は、音楽制作ソフトウェアの提供者に経済的損失を与えることで製品の存続にも影響を与え、最終的には素晴らしい音楽制作ソフトウェアがこの世から消えるという形でエンド・ユーザー全員に不利益をもたらすということは、我々全員が知っておく必要があります。


IMSTAの主要なミッションはこの意識啓発活動であり、この問題についてはIMSTA.orgの公式ページに詳しく紹介されています。


▼海賊行為の実態


▼海賊行為に関する正しい知識を身につける


(※この記事では海賊版の使用を正当化する間違った考え方の一事例として「ソフトウェアの値段は高すぎる」というものを挙げていますが、ソフトウェアの継続的な開発には膨大な時間とお金が掛かるという話は、以前に弊社ブログでも取り上げたことがありました。)


▼【macOS】アプリケーション開発とOS対応



2.海賊版に手を出さないために


海賊版は、音楽制作ソフトウェアに限った問題ではありません。おそらく現在見られるような電子コピーによる海賊版のルーツの一つは、パソコンでCDのリッピングが可能となり、インターネットでのファイル交換が可能となった2000年代前半に起こった音楽ファイルの海賊版なのかと思います。


この時は、2003年に開始されたiTunes Storeによる流通システムの技術革新が、海賊版の音楽ファイルの撲滅に大きく寄与したように思います。iTunes Storeは、海賊版よりも高品質かつ簡単に入手できる正規版をリーズナブルな価格で提供すれば、人は時間を掛けてトラブルのリスクを抱えつつ海賊版を探して使うよりも正当なコストを負担して正規版を使うようになるという、海賊版対策の一つの方向性を示してくれました。


しかし、技術による対策には海賊行為を行う側の技術を圧倒する投資が必要なため、iTunes Storeが行ったようなことが常に可能とは限りません。


海賊版の流通を無くすためには、技術上の対策と共に、個々のエンド・ユーザーが海賊版の使用が社会全体にもたらすデメリットを知ると共に、海賊版を見分ける知識を身につけることが重要に思えます。


実のところ、この後者の「見分け」はなかなか簡単でないこともありますが、業界仲間の何人かの意見を聞きながら、以下のようなメモを作ってみました。




もしどうしても判断が難しいケースに遭遇した場合は、メーカーもしくは国内販売代理店に聞いてみるというのが良いでしょう。


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ソフトウェアの開発や流通がグローバルに展開される昨今の状況を踏まえると、ソフトウェアの海賊版の問題はグローバルな視点で対策を講じる必要があります。


対策の効果は各国の法的環境の整備水準や人々の著作権に対する意識にも左右されると思われ、同じ製品でも実は海外市場では深刻な被害を受けていて開発上は瀕死の状態、と言った場合もあるかも知れません。


そうしたことも考えつつ、エンド・ユーザーの我々としては、海賊版の問題を知り、これに手を出さないことを心掛けたいものです。

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