Sibeliusに付属のPhotoScore Firstによるスキャン入力
- tarokoike
- 5月21日
- 読了時間: 7分
更新日:5月21日
Sibeliusには、楽譜スキャニング・ソフトウェアであるNeuratron PhotoScore & NotateMe Ultimateの機能簡略版であるPhotoScore & NotateMe First(以下、PhotoScore First)が搭載されています。

他のプロ向け楽譜作成ソフトウェアと比較すると、スキャン機能はFinaleでは2016年発売のv25以降は搭載されておらず、またDoricoでは元から搭載されていません。
Sibeliusのみがスキャン機能を搭載しているということは、v2014以前でスキャン機能を多用して来たFinaleユーザーにとっては、クロスグレード版のセール期間中にDoricoだけではなくSibeliusも入手しておく理由の一つになるかも知れません。
しかも、スキャン後の補正機能がなく、インポート後に多くの修正作業を要することが通例であったFinaleのスキャン機能と異なり、PhotoScore Firstではスキャン後Sibeliusにエクスポートする前にエラーを確認・修正するための機能が充実しており、Finaleに比べると良いスキャン結果が期待できます。
今回の記事では、Sibeliusに搭載されたこの機能について概観します。
【目次】
1.PhotoScore Firstの機能制限
1−1.一般的な機能制限
2.PhotoScore Firstを使ってみる
2−1.ファイルの読み込み
2−2.修正作業
2−3.Sibeliusにエクスポート
ーーー
1.PhotoScore Firstの機能制限
1−1.一般的な機能制限
PhotoScore Firstの起動直後には、以下のようなパネルが表示されます。

ここには、別売りの有料版であるPhotoScore Ultimateと比較した際のPhotoScore Firstの主な機能制限が記載されています。
要約すると「標準的なルールで記された2本までの譜表について、音符/休符だけを読み込む」という仕様です。
つまり、発想記号やアーティキュレーション、コード記号、歌詞などは読み込まれないため全てユーザー自身で入力する必要があり、また読み込める譜表の数も2本までということで、もっぱらメロディ譜やピアノ譜向けの機能と言えます。
PhotoScore Firstは日本語版にローカライズされていませんが、上記のパネルに記載された内容は、日本語では以下のようになります。
First | Ultimate(有料版) | |
スラー、ヘアピン、アーティキュレーション | No | Yes |
連符 | 三連符のみ | Yes |
装飾音符、キュー音符、譜表をまたぐ音符 | No | Yes |
テキスト(タイトル、歌詞、発想記号等) | No | Yes |
パーカッション譜と4弦用タブ譜 | No | Yes |
ギター用コードダイアグラム | No | Yes |
リピート小節、コーダ | No | Yes |
フルバージョンのNotateMeの手書き入力結果 | No | Yes |
臨時記号のタイプ | 3種類 | 7種類 |
音部記号、オーナメント、ペダルタイプ | 2種類 | 15種類 |
譜表あたりの最大声部数 | 2 | 4 |
組段あたりの最大譜表数 | 2 | 64 |
最大ページ数 | 1 | 400 |
音符/休符あたりの最大付点数 | 1 | 3 |
読み込み可能な最小音価 | 16分音符 | 128分音符 |
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1−2.機能制限による影響を、予め確認する
上記の機能制限が分かっていれば、スキャン入力後にどのような修正作業が発生するか、予めおおよそ見当がつきます。
今回はIMSPLから入手したパブリックドメインである、ショパンのエチュードOp.25-7の最初のページを抜粋したPDFファイルを事例に用います。

前掲の表にある通り、PhotoScore Firstではダブルシャープ、複付点音符、32分音符は読み込まれませんので、この曲の場合は少なくともこれらの箇所には、確実に修正作業が発生することになります。
また、同じくPhotoScore Firstでは読み込まれない指番号や装飾音符は音符/休符と誤認識される可能性があることや、こうした状況から類推して1小節目のように拍子記号がない場合も何らかの問題が発生することが予測できます。
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2.PhotoScore Firstを使ってみる
では、実際にこのファイルをPhotoScore Firstに読み込んでみます。
2−1.ファイルの読み込み
PhotoScore Firstでは、ビットマップ(.bmp)、TIFF(.tif)、ピクト(.pict)、PDF(.pdf)のいずれかの形式が読み込み可能ですが、今回の対象はPDFファイルのため、FileメニューからOpen PDFsを選択し、指定したファイルから該当のPDFファイルを選択します。

その後、解像度を選択するように求められますが、これは基本的に初期設定のMediumのまま変更する必要はありません。

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2−2.修正作業
こちらが読み込んだ直後の状態です。画面上部にはマウスオーバーした箇所の元の譜面、右上にはその拡大図が表示され、比較しながらの修正作業が行い易い画面構成になっています。

ダブルシャープ、複付点音符、指番号や装飾音符に問題が発生するのは予想通りですが、付点やナチュラル、シャープにも問題が発生していることが分かります。
細かな音符はSibeliusに読み込んだ後に修正した方が楽な場合もあるかも知れませんが、特に拍子や音価については、PhotoScore First上で修正しておいた方が全体の作業が楽になります。
PhotoScore FirstにはSibeliusと同じスタイルのテンキーが搭載されているので、Sibeliusに慣れている人は直感的に修正作業ができると思います。


1小節目については、欠落した付点の修正後は四分音符10個分が足りないと表示されるので、Sibeliusにインポート後に拍子記号を非表示にする前提で、この小節のみに10/4拍子を設定してみました。
これは「Createメニュー>Time Signature」で設定できます。

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2−3.Sibeliusにエクスポート
修正作業が完了したら、「Send To Sibelius」ボタンをクリックします。

その後、インターフェースはSibeliusに切り替わり、どのような状態でこれをSibeliusにインポートするかを設定します。※
※楽器の設定については初期設定では「Sibeliusが楽器を選択」が選ばれていますが、これは今回のピアノ譜についてはインポート後に楽器にピアノが自動選択されなかったため、「楽器の選択」から手動でピアノを選択しました。

こちらがSibeliusにインポートされた状態です。これでPhotoScore First上での作業は終了で、あとはSibelius上で、発想記号やアーティキュレーション、ラインなどを入力して仕上げていきます。

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2−4.よくあるエラーメッセージの日本語訳
インポート/エクスポート時に、以下のようなエラーメッセージを見かけることが多いかも知れませんので、内容の日本語訳を掲載しておきます。
![]() | Please note that this page contains more than the maximum of 2 staves per system that this version of PhotoScore supports. このページには、このバージョンのPhotoScoreでサポートされる一段あたり最大2本を超える譜表が含まれていることにご注意ください。 (※当社注:このメッセージは、3段以上の譜表のファイルを読み込んだ際に表示されます。) |
![]() | Sorry, the maximum number of pages in a score for this version of PhotoScore has been reached. 申し訳ありませんが、このバージョンのPhotoScoreのスコアの最大ページ数に達しました。 (※当社注:このメッセージは、2ページ以上のファイルを読み込んだ際に表示されます。) |
![]() | Rhythm Warning This score contains bars that do not add up to the time signature. They are highlighted with red dashed lines above and below. It is strongly recommended that rhythm and key signatures are correct before opening PhotoScore files in other programs. Page(s) affected: 1 Would you like to continue anyway? Show This Next Time リズムに関する警告 この楽譜には、拍子記号と一致しない小節が含まれています。それらの小節は上下に赤い破線で強調表示されています。 PhotoScoreファイルを他のプログラムで開く前に、リズムと調号が正しいことを確認することを強くお勧めします。 影響を受けるページ: 1 このまま続行しますか? 次回も表示する (※当社注:このメッセージは、音価の修正が未完了な状態でファイルをエクスポートしようとした際に表示されます。) |
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3.楽譜スキャニング・ソフトウェア使用における権利上の注意点
最後に、スキャン機能にまつわる法的課題について簡単に触れておきます。
Sibeliusの公式ユーザーマニュアルである「Sibelius Reference Guide.pdf」のp.53には、PhotoScore Firstの使用に際しての以下の注意書きがあります。
音楽著作権
許可なく人の楽譜をスキャンすると、著作権を侵害することになります。スキャニングによる著作権の侵害は違法です。
ほとんどの楽曲には、著作権で保護されている楽曲であるのか、その著作権所有者が誰なのかが明示されています。スキャンしたい音楽の著作権の状態がはっきりしない場合は、その音楽の出版社や作曲家、または編曲者にお問い合わせください。
また、PhotoScore Firstの開発元であるNeuratron社のウェブサイトにも、小さい文字ながら、ページ最下部に以下のような記述があります。
Scanning, recording and transcribing copyright music without permission is illegal. ※
※当社訳:「著作権のある音楽を許可なくスキャン、録音、転写することは違法です。」
なお、楽譜スキャニング・ソフトウェアとしてはKAWAIのスコアメーカーも有名ですが、スコアメーカーの製品ページ内にある以下の特設ページも、スキャン機能の法的課題について考えるにあたり、ご参考となるかと思います。
▼スコアメーカーと著作権(株式会社河合楽器製作所様ウェブサイト)
このページにあるように、楽譜のスキャン行為は、たとえ読み込み対象となる楽曲自体は著作権が消滅したパブリックドメインであっても、楽譜製作者が有する「版面権」に抵触すると主張される場合があります。
版面権については、以下のページに詳細があります。
▼よくあるご質問(一般社団法人日本楽譜出版協会様ウェブサイト)
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楽譜作成ソフトウェアのスキャン機能に関して、個人的に忘れられない事件があります。
それは2016年に発売されたFinale v25の新機能として、PDFファイルからのスキャン入力機能が開発元MakeMusic社より大々的に宣伝されたことをきっかけに、同社が所在する米国にてスキャン機能に関する法的議論が巻き起こり、結果としてFinaleからスキャン機能が恒久的に削除されたことです。
Finaleだけが法的理由からスキャン機能の削除を余儀なくされた一方、Sibeliusやスコアメーカーが現在でもなおスキャン機能を搭載している理由は定かではありません。
しかしMakeMusic社がその後、楽器練習アプリであるSmartMusicの開発に大きくシフトしていったことは、今から考えると、この事件と無関係ではなかったように思えます。
当時の経緯は、今でもMakeMusic社のブログで読むことができます。
▼Restrictions may apply*
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