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演奏用の電子楽譜を管理し閲覧するためのアプリ、Newzik

更新日:7 時間前

楽譜の用途を考えると、楽譜作成ソフトウェアと電子楽譜リーダー・アプリケーション(以下、電子楽譜リーダー)は、楽譜使用の入口と出口の両極端に位置するツールと言えます。


これまでは楽譜作成ソフトウェアに関する記事を数多く書いて来ましたが、今回は電子楽譜リーダーについて書いてみようと思います。


一昔前は、iPadに電子楽譜リーダーをインストールして使用するというのは演奏現場で楽譜を見る方法としては一応アリだけど、演奏中にフリーズしたり強制終了したりする不安を考えると演奏現場は紙の楽譜が確実、という人が多数派だった気がします。


しかし今はいつの間にか、「iPad+電子楽譜リーダー」というセットは、プロの演奏現場でも当たり前になっているようです。


今回はそうした電子楽譜リーダーの中から、電子楽譜リーダーとしては珍しくMusicXMLを扱うことが可能で、楽譜作成ソフトウェアとの親和性が特に高いと考えられる、Newzikという製品に注目してみます。


他製品との比較からみたNewzikの仕様


2014年にフランス・パリで創業したNewzik社により開発・販売されているNewzikは、公式サイトによるとユーザー数は世界で40万人以上と言われています。


電子楽譜リーダーには初心者向けからプロ向けまでの様々な製品がありますが、Newzikと同じく世界市場向け・プロ仕様のforScore、そして海外にも広く普及している日本発アプリのPiascoreと比べると、その性格がより明らかになるのではないかと思います。


これら3製品の仕様を比較した以下の表では、Newzikの二つの特徴である、MusicXMLの扱いに関する部分に黄色、他ユーザーとの連携に関する部分に緑色のハイライトを施しました。


Newzik

forScore

Piascore

動作環境

iPad、iPhone、ブラウザ

iPad、iPhone、Mac(macOS)

iPad、iPhone、Mac(macOS)

読み込めるファイルの種類

PDF、MusicXML

PDF

PDF

カメラからの楽譜キャプチャ

あり

あり

あり

セットリスト作成・管理

あり

あり

あり

他ユーザーとの楽譜共有

専用サーバにてリアルタイムで変更を共有可能

外部クラウド(Dropbox等)やAirDropなどを用いたファイル単位での共有が可能

外部クラウド(Dropbox等)やAirDropなどを用いたファイル単位での共有が可能

表示オプション

セピア調

セピア調、Best Fitモード、Reflow等の豊富な表示オプションあり

セピア調、白黒反転

Bluetooth ペダル譜めくり対応

あり

あり

あり

二画面(見開き)表示

あり

あり

あり

五線譜の作成

なし

なし

空五線譜を呼び出して手書き入力可能

書き込み(アノーテーション)

あり

あり

あり

書き込みの共有

専用サーバにてリアルタイムで変更を共有可能

外部クラウド(Dropbox等)やAirDropなどを用いたファイル単位での共有が可能

外部クラウド(Dropbox等)やAirDropなどを用いたファイル単位での共有が可能

楽譜の書き出し

PDF、MusicXML

PDF

PDF

OMR(スキャニング)

あり(LiveScore変換:ただし精度は限定的)

なし

なし

プレイバック

・専用サーバ上に音源をアップロード、またはYouTubeと連携

MusicXMLの場合はファイルから直接プレイバックが可能

内蔵オーディオプレーヤー(楽譜に音源を紐付けて再生)、iPad内のミュージックライブラリ等と連携

iPad内のミュージックライブラリ等の音源と連携(楽譜に紐付けて再生)

縮小拡大に伴う楽譜レイアウト自動変更

あり(MusicXML)

なし

なし

チューナー

あり

あり

あり

メトロノーム

あり

あり

あり

オーディオプレーヤー

あり

あり

あり

オーディオプレーヤーのキー変更

あり

あり

あり

オーディオプレーヤーのテンポ変更

あり

あり

あり

バーチャルキーボード(ピアノ)

あり

なし

あり

IMSLPとの連携

あり(IMSLPからの検索・ダウンロード対応)

あり(IMSLPからの検索・ダウンロード対応)

あり(IMSLPからの検索・ダウンロード対応)

外部ライブラリの利用

あり

あり

あり

ユーザーインターフェースの日本語対応

iOS版は日本語対応だが、Web版は英語のみ

英語のみ

日本語対応

サポートの言語

英語

英語

日本語

価格

◆機能限定の無料版:あり

◆Essentials:永続ライセンス¥4,000

・最大1,000曲のクラウド・ストレージ

・ウェブアプリへのアクセス

・すべてのデバイスで利用可能

◆Premium:1年間¥7,000、永続ライセンス¥30,000

・クラウドストレージ容量無制限

・LiveScore変換無制限

・MusicXML & MIDIエクスポート対応

・顔の動きでの譜めくり機能

など

◆機能限定の無料版:なし

◆永続ライセンス¥4,000

◆機能限定の無料版:あり

◆永続ライセンス¥1,000


Newzikの特徴を一言でまとめると、公式ページが「The music score management and reading app」と表現している通り、「演奏用の電子楽譜を管理し閲覧するためのアプリ」と言えます。


forScoreやPiascoreは基本的にユーザー1名による使用で完結しており、ファイルのシェアが必要な場合は外部のクラウド・サービスなどに頼るのに対し、Newzikは独自のクラウド・サービスを提供しており、複数ユーザーが楽譜やそこへの書き込み(アノーテーション)をシェアするための充実した機能を備えています。


このことから、Newzikは、1ユーザーによる個人使用はもちろん、バンドやオーケストラなど複数ユーザー間で特定の楽譜を管理し、使用することを特に重視していることが分かります。


また、純粋に電子楽譜リーダーとしての性能を見た場合はforScoreが卓越しており、Piascoreがそれに続いているという印象を受けますが、NewzikはMusicXMLを読み込めることがforScoreやPiascoreと決定的に異なる点で、これにより楽譜の縮小拡大に伴う楽譜レイアウトの自動変更や、Newzikファイル(MusicXML)の構造情報に基づくプレイバックが可能となります。


このため、楽譜作成ソフトウェアとの連携に関しては、PDFの読み込みに留まるforScoreやPiascoreよりも、MusicXMLも読み込み可能なNewzikの方が向いていると言えます。※


※ただし、異なる製品間でのMusicXMLの再現性は完全ではないということは、楽譜作成ソフトウェア同士でファイルやり取りを行う場合と同じであることには注意する必要があります。


以下の動画は、MusicXMLで取り込んだ楽曲をNewzikで開き、iPad上で2本指のZoom in & Outジェスチャーに従って楽譜のレイアウトがリアルタイムに変化している様子を捉えています。


Doricoを使っている人にとっては、Dorico 6で搭載されたフィルビュー(Fill View)と概ね同じことができる、と考えるのが分かり易いでしょう。




Newzikの有効活用方法


前述のように、NewzikではMusicXMLをインポートして、ユーザーがiPad上での表示レイアウトを自由に変更することができますが、この機能はユーザーにとっては特にリハーサル前の個人練習の段階で、メンバーそれぞれが自分が演奏すべきフレーズの構造を理解するのに役立つのではないかと思います。


また、MusicXMLをインポートした場合、それをNewzik上でファイルから直接プレイバックすることが可能です。


これはmp3などの音源を読み込んでプレイバックするのと異なり、楽譜作成ソフトウェアのプレイバックと同様にキャレットと連動してプレイバックされるため、特に譜読みが苦手な演奏者にとっては大きな助けになるかと思います。


その次の段階では、PDF楽譜を用いて、必要に応じて楽譜上の書き込みを関係者間でシェアしつつ、作曲家、アレンジャー、他のメンバーと共にリハーサルを積み重ねていくことになるのではと思います。


Newzikで楽譜を管理することにより、楽譜上の書き込みを特別な操作の必要なしに殆どリアルタイムで関係者と共有することができます。


こうした書き込みに基づいて、アレンジャーや写譜家が楽譜を改訂して最新版を再度シェアするのも楽です。


ライブラリアン(楽譜管理者)を必要とするような大規模アンサンブルでは、こうしたNewzikの機能は、大きなメリットになるのではないかと思います。


ーーー


電子楽譜リーダーといえば、かつてGVIDO(グイド)という演奏家の夢を体現したような素晴らしい製品がありましたが、これは20万円近い価格が一つのネックとなったせいか、残念ながら2022年3月末日で販売終了となってしまいました。


2025年末の現在は、GVIDOのような電子楽譜専用端末が市場から消えた中で、汎用性の高い表示端末として既に広く普及していたiPad上での使用を前提とした電子楽譜リーダーが市場に普及している状況と言えます。


しかし、そもそもiPadは楽譜を表示するには画面が小さく、GVIDOのように楽譜の閲覧に最適なデバイスではないため、まだ紙の楽譜の方が実用的な場合があるかも知れません。


また、今後、GVIDOのコンセプトを引き継ぎつつもより安価な製品が再び登場する可能性もありますし、個人的にはその可能性に大いに期待しているところです。

 
 

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