SibeliusでFinale v27日本語版コードサフィックス・ライブラリを再現する
- tarokoike
- 6月23日
- 読了時間: 7分
更新日:6月24日
前回記事では、Dorico Proがバージョン6になってようやくFinaleと同様にユーザー好みのコード記号ライブラリを無理のない作業量で作成できるようになったという話をしました。
乗り換え先にDoricoではなくSibeliusを選んだ方にとっては、ではSibeliusではどうなのかというのは気になるところでしょう。
結論から言うと、Sibeliusの場合も、FinaleやDoricoほどの自由度はないものの、十分に実用的な範囲でこれは可能と考えて良いかと思います。今回の記事では、SibeliusでFinale v27日本語版コードサフィックス・ライブラリを可能な限り再現する方法をご紹介します。
【目次】
2.Sibeliusにおけるコード記号のカスタマイズ
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1.FinaleとSibeliusのコード記号の比較
まず、こちらがFinale v27日本語版に標準搭載された、国内代理店が独自に作成したコードサフィックス・ライブラリ(一部)と、それを譜面化したファイルです。

こちらがSibeliusにて、それを可能な限り再現したファイルです。

Finaleでは、例えば1〜3小節目のCマイナーについて「Cm」「C-」「Cmin」の3種類のサフィックス(接尾辞)が登録されていましたが、Sibeliusではそれらが全て「Cm」になっています。34〜36小節目のメジャーセブンの「Maj7」についても同様な状態です。
また、Finaleでは42小節目の「C7(♭9)」などのように、テンション部分を右上に配置してコード記号の幅を節約していますが、Sibeliusでは全てが横一列に配置されていることが、目立った違いと言えます。
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2.Sibeliusにおけるコード記号のカスタマイズ
コード記号のカスタマイズにあたっては、Finaleの場合は例えばメジャーセブンに対して「Maj7」あるいは「△7」のいずれかを一律で適用するといったグローバル設定はなく、どのような表現を取るかについては、個別のサフィックス(接尾辞)ごとにローカル設定を施していました。

一方、SibeliusやDoricoでは、ファイル全体に影響するグローバル設定と、個別のサフィックスに影響するローカル設定の2段階でコード記号のカスタマイズを行います。
(1)グローバル設定:記譜ルール
Sibeliusの場合、グローバル設定は「外観タブ>記譜ルール>コード記号」で行います。後述する「コード記号を編集」ダイアログで個別にローカル設定を行っていない限り、ここでの設定が有効となります。
例えば「メジャー7thコード」欄にて「C^」を選択している場合、キーボードで「CMaj7」「CM7」「Cma7」などのいずれを打ち込んでも表示結果は全て「C△」となり、また、入力後にこれを例えば7を追加した「C^7」に変更した場合は、該当するコード記号は一斉に「C△7」に切り替わる仕組みとなっています。
このグローバル設定は作業中のファイルのみに影響し、新規作成ファイルも含めた他のファイルには影響を与えませんが、ハウススタイルとしてエクスポート/インポートすることで他のファイルに同じ設定を施すことが可能です。
Sibeliusのコード記号をFinale v27日本語版のスタイルと近づけるためには、まずは「記譜ルール>コード記号」にて、以下のようなグローバル設定を行います。

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(2)ローカル設定:コード記号を編集
一方、個別のサフィックスをカスタマイズするローカル設定は、「テキストタブ>コード記号」の欄の右下の拡張ボタンをクリックすると現れる「コード記号を編集」ダイアログで行います。
ここでの設定は、Finaleで言うところのコードサフィックス・ライブラリに保存されるため、編集中のファイルはもちろん、新規作成ファイルを含む全てのファイルで有効となります。

別の接尾辞を適用した既存ファイルの場合、そのファイルを開いただけでは最近に設定した接尾辞(=サフィックス)は適用されませんが、該当部分を選択して「外観タブ>デザインと位置>デザインをリセット」を実行することで、その箇所については最近に設定した接尾辞が適用されるようになります。
コード記号の表示ウィンドウの直下にある「接尾辞を編集」ボタンをクリックして開く「コードの接尾辞を編集」ダイアログでは、例えばマイナーセブン・フラットファイブについては「m7(♭5)」「m7♭5」「m7-5」などと、マイナーの表示や括弧の表示なども含め、個別のサフィックスについて好みの表現を選択することができます。
この選択はダイアログを開いた後に「形を上書き」にチェックを入れることで可能となり、選択した結果は前述の「記譜ルール」ダイアログによるグローバル設定よりも優先されます。(つまり、そのローカル設定がグローバル設定を上書きします。)

マイナーセブン・フラットファイブの事例では、接尾辞の要素はマイナー部分とフラットファイブ部分の二つに区分され、ダイアログ最上部の「接尾辞の要素」プルダウンメニューで切り替えることで、それぞれについてカスタマイズが可能です。

なお、「コード記号を編集」ダイアログでの編集は、あくまで単一の接尾辞においてのみ有効で、例えば上記の事例では類似のコードである「m9(♭5)」(マイナーナイン・フラットファイブ)については別個の編集が必要となります。
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3.Sibeliusにおけるコード記号のフォント設定
Sibeliusの初期設定においては、コード記号のフォントはOpus Chords (Std)というTimes系の形状を持ったフォントが使用されますが、これは「外観タブ>記譜ルール>コード記号>テキストスタイルを編集」で開く「譜表のテキストスタイル」ダイアログにて変更可能です。

Finale v27の場合、コード記号のアルファベット部分は、日本語版ではArial、英語版ではTimes New Romanを使用しています。
Sibeliusの場合、コード記号のフォントにはFinaleやDoricoのようにArialやTimes New Romanのような汎用の英文フォントを使用することができず、Sibeliusに同梱された6種類のフォントから選ぶ必要があります。
おそらくはOpus Chords Sans Stdを使用するのが、Arialを使用したFinale v27日本語版と最も近い外観となるでしょう。ジャズ・バラードのようにコード記号が密集する可能性がある譜面では、Opus Chords Sans Condensed Stdを使用すると、横方向のスペースを多少節約できます。

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Sibeliusの場合はFinaleやDoricoのように、テンション部分の位置や大きさ等を変更することはできません。また、コード記号に使用可能なフォントの種類も限られています。
しかし、実際にFinaleやDoricoでコード・サフィックスのカスタマイズを行なってみると分かりますが、マイナーやメジャーといったコード・クオリティの編集を超えてテンション部分にまで手を加えようと思うと、操作の習熟に要するエネルギー、実際の作業量、ソフトウェアの動作安定性といった様々な側面において、一気にハードルが上がります。
コード記号のカスタマイズはライブラリ化できるため、たとえ苦労しても一度作ってしまえばあとは使い回すことができますが、そもそもカスタマイズにどこまで労力を費やすかは、作る楽譜の用途によるかと思います。
一般にソフトウェアは、高度な機能を多く追加していくほど使い勝手は低下していきます。多くのユーザーにとって使用頻度が比較的低いにも関わらず高度な機能が増えていくと、その製品は「何でもできるけど扱いが難しい」というレッテルを貼られるようになります。
その意味においては、現場で求められる機能を必要十分なだけ搭載し、シンプルで分かり易く直感的に操作しやすいという点において、Sibeliusは多くの人にとってバランスに優れた、より実用的な製品と言っても良いかも知れません。
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