Dorico Pro 6で可能となった、Finale並みのコード記号のカスタマイズ(前編)
- tarokoike
- 5月28日
- 読了時間: 11分
更新日:2 日前
日本では2025年5月1日に発売となったDorico Pro 6では、多くのアップデートが加えられました。
コード記号関連では、隣接する2つの文字/記号間のカーニング(文字間の距離)を体系的に調整できるようになったことと、あるコード記号における文字/記号バランス等の編集結果が同じ種類のコード記号のルート違いの場合にも適用されるようになったことが、特に重要な改善点かと思います。

こちらの動画にも、コード記号に関するDorico Pro 6の新機能の詳細が紹介されています。
正直なところ、バージョン5以前のDoricoでは、コード記号関連の機能がFinaleと比較して弱いという印象を受けていました。例えば、Finaleで作成していたようなユーザー設定のコード記号ライブラリを作成することは、後述のようにDorico Pro 5では困難でした。
今回のバージョン6にて、ようやくそれが改善され、Doricoにもコード記号に関してFinale並みの編集能力が備わったと言えそうです。
まだ若干、挙動が謎な部分も残っているのですが、当社での検証結果からもこれは実用レベルで使用可能と判断できたため、現時点で分かったことをこの記事にまとめておこうと思います。※
※前編記事ではDorico Pro Version 6.0.0.6026 (Apr 29 2025)にて動作確認を行いました。
この記事は情報量が多いため、2回に分けて公開します。前編となる今回は、Doricoのコード記号カスタマイズ機能に関する従来の課題と今回のアップデートによるその解決、Dorico Pro 5以前でも可能であった浄書オプションを用いた設定方法についてまとめてみます。
【前編目次】
・コード記号の編集における各機能の使用順序
1.フォントを決める
【後編目次】
・前回記事に関する追加情報
(1)コード記号の音楽テキストフォントは、初期設定のBravura Textのままに
(2)コード記号内の臨時記号に、Bravura以外のフォントを使用したい場合
(3)コード記号に関するBravura Textに特有の仕様
・コード記号の編集における各機能の使用順序(続き)
3.コード記号のカーニングペア
4.コード記号の外観を調整
5.個別のコード記号の外観を調整
・機能簡略版Dorico Elementsでのコード記号編集
・今後の更なる改良への期待
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・楽譜作成ソフトウェアとコード記号
一般にコード記号(英:Chord Symbol)は、ジャズ/フュージョン、ロック、ポップスなど、決まった音符やリズム通りに演奏しない場合が多い音楽ジャンルで用いられます。また、例えばハーモニーを分析するための音楽教材などでも見かけることがあるかも知れません。
これらの楽譜は、現場で演奏者が読み取り易いことや、学習者が理解し易いことが記譜上の最重要課題であることから、ケースバイケースで表現方法が異なり、従ってこれを記譜するための楽譜作成ソフトウェアにおいては、表現上のカスタマイズの幅広さが求められて来ました。
楽譜作成ソフトウェアとしては最も柔軟な編集機能を備えていたFinaleを振り返ると、その強みの一つに、コード記号内のあらゆる要素のフォントの種類、大きさや配置を自由に編集し、それを元にユーザー好みのコード記号ライブラリを作成できるということがありました。
実のところFinale日本語版は、その機能を駆使して日本での当時の販売代理店が日本国内の記譜慣行に基づいて自作したコード記号ライブラリを搭載しており、それはオリジナルの英語版に搭載されていたライブラリとは全く異なるものでした。(詳細はこちらの記事をご覧下さい。)

Finale v26/27日本語版のコードサフィックス・ライブラリ(一部)
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・Dorico Pro 5以前の課題と、今回のアップデートによる改善
Doricoでも、そのようにコード記号をユーザー好みに編集することは以前から可能でしたが、Dorico Pro 5以前では、例えばCm7(♭5)の横幅を節約するために「(♭5)」部分を「m7」の上に移動させるといった編集を行った場合、それはDm7(♭5)などルートを変更した際には適用されず、同じ編集作業を繰り返す必要がありました。
つまり、Finaleで行ってきたようなユーザー好みのコード記号ライブラリを作成する場合は、1種類のコード記号につき、ルートの全パターンで作成するとして最大7*3=21通り(CDEFGAB、C#D#E#F#G#A#B#、C♭D♭E♭F♭G♭A♭B♭)で同じ設定作業を個別に行う必要があり、これは不可能ではなかったものの、作業量の面で現実的ではありませんでした。

Dorico Pro 5以前では、ルート違いの同種のコード記号を一括編集できなかった。
Dorico Pro 6ではこの点が改善され、あるルートでのコード記号の編集が他のルートの同種のコード記号にも適用できるようになりました。
Finaleでは当たり前であったこの機能が今までDoricoに搭載されていなかったことに驚かれる方もいらっしゃるかも知れませんが、とにかくこれにより、Dorico Pro 6ではFinaleと同様に、ユーザー好みのコード記号ライブラリを無理のない作業量で作成できるようになりました。
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・Dorico Pro 6におけるコード記号関連の三つの主要なアップデート
Dorico Pro 6におけるコード記号のアップデートには、大きく分けて以下の3種類があります。本記事では、このうち(1)(2)を主に取り上げます。
(1)コード記号の編集結果を全てのルートに反映
「プロジェクトにおけるコード記号のデフォルトの外観」ダイアログに「Apply to All Roots」ボタンが追加され、あるコード記号における要素の大きさや配置などの編集結果が、同じ種類のコード記号のルート違いの場合にも適用されるようになった。
(2)任意のフォント・ペアにてコード記号のカーニングを設定
「コード記号のカーニングペアを編集」ダイアログが新規追加され、Doricoの初期設定である「テキストにAcademico、音楽記号にBravura Text」以外の組み合わせ、例えばFinale日本語版風の「Arial+Finale Maestro」といった組み合わせでも、最適なカーニングをユーザー自身で設定できるようになった。
(3)ユーザー定義のコード記号
「カスタムのコード記号を作成」ダイアログが新規追加され、例えば「C cluster」といったようなユーザー定義の自由なコード記号を新設できるようになった。
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・コード記号の編集における各機能の使用順序
本記事を公開時の2025年5月28日時点では、まだ日本語版ユーザーマニュアルでの情報更新がなされていませんが、インストール時にダウンロードできるファイル「Dorico_6.0_Version_History.pdf」には、コード記号の編集にあたっての作業手順に関して、以下のようなガイドが掲載されています。
最初に「ライブラリ>フォントスタイル」にて、コード記号フォントおよびコード記号音楽テキストフォントを決めておく。
「浄書オプション>コード記号」ページにて、好みに近い設定を施す。
上部にある「コード記号プリセット」から、好みの外観に最も近いものを選択する。
「コード記号」ページの個々のオプションを注意深く検討し、特定のコード記号を好みの外観にできるだけ近づける。
「コード記号」ページの「デザイン」セクションで、各構成要素のオフセットとスケール係数を調整する。(特に初期設定とは異なるフォントを使用している場合、これらはコード記号の全体的な外観に大きな影響を与える可能性がある。)
「浄書オプション」ダイアログで可能な操作をすべて試した後、各構成要素の水平方向の間隔が適切でない場合は、「コード記号のカーニングペアを編集」ダイアログ(Dorico Pro 6 の新機能)を使用して、これらのカーニングペアを調整する。
「プロジェクトにおけるコード記号のデフォルトの外観」ダイアログを使用して、コード記号全体または個々の構成要素の外観を調整する。
特定の状況に合わせて個々のコード記号の外観を調整したい場合は、浄書モードでそのコード記号を右クリックして「コード記号とコードダイアグラム>コード記号の外観」から「プロジェクトにおけるコード記号のデフォルトの外観」を表示させ、そのコード記号の外観を上書きする。
本記事においてもこの手順に従い、事例としてFinale v26/27日本語版の典型的なコード記号のいくつかを、Dorico Pro 6でゼロから再現することを試みます。
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1.フォントを決める
前述のように、Finale v26/27の日本語版はオリジナルの英語版とは異なる独自のコードサフィックス・ライブラリを作成し、搭載していました。その仕様は以下となります。
【Finale v26/27日本語版におけるコードサフィックスの仕様】
ルート:Arial 16pt
ルートの変化記号:Kousaku 17pt
サフィックス:Arial 12pt
テンションの括弧と数字:Arial 10pt
テンションの変化記号:Kousaku 14pt
Majorの△、half/dimの○と%:Kousaku 24pt
コード記号のフォントには、「ライブラリ>フォントスタイル」にて設定する「コード記号フォント」および「コード記号音楽テキストフォント」の2種類があり、前者はルートやMaj7といったアルファベット部分の、後者は♭や#といった音楽記号部分を担います。

今回の事例では、コード記号フォントにはFinale v26/27日本語版と同様にArialを使用します。
一方、コード記号音楽テキストフォントについては、これも以前の別記事で詳述した通り、Finale日本語版における初期設定の音楽フォント(Finale用語では「記譜用フォント」)であったKousakuはSMuFL非対応フォントのため、Doricoではこれを音楽フォントとして使用できません。
そのため、Kousakuの代わりに、Doricoに同梱されたSMuFL対応の音楽フォントのうち、Kousakuに近い外観を持つFinale Maestroを使用します。
サイズは譜面に表示された結果を元に各自の好みで設定すれば良いと思いますが、ルートをArial 16ptとした場合、Finale Maestroは概ね14〜16ptに設定すると、良好なバランスが得られると思います。
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2.浄書オプション>コード記号での設定
次に、浄書オプション>コード記号の設定を行います。

これは基本的に各自がその好みに従って自由に決めるべき設定です。設定項目は多いですが、この作業は基本的に一回だけなので、時間を掛けて熟慮しながら行うのが良いかと思います。
もしFinale v26/27日本語版と最も近い設定にしたい場合は、以下のように設定するのが良いでしょう。
【コードのルート】
ルート音の臨時記号の垂直位置:上付き(※これを行うことでルート音の臨時記号はかなり小さくなってしまいますが、これは本記事の後編で紹介する方法で調整します。)
【コードのクオリティー】
コードのクオリティー>メジャーとマイナー>メジャーおよびマイナークオリティーの垂直位置:上付き
コードのクオリティー>ディミニッシュ>テキストで表示するディミニッシュクオリティーの垂直位置:下付き
コードのクオリティー>ディミニッシュ>丸で表示するディミニッシュクオリティーの垂直位置:下付き
コードのクオリティー>ハーフディミニッシュ>丸にスラッシュで表示するハーフディミニッシュクオリティーの垂直位置:下付き
コードのクオリティー>オーギュメント>オーギュメントクオリティーの垂直位置:下付き
コードのクオリティー>オーギュメント>オーギュメントクオリティーの垂直位置:下付き
コードのクオリティー>サスペンデッドノート>sus 2ndの外観:2のみ
コードのクオリティー>サスペンデッドノート>サスペンデッドノートの垂直位置:下付き
【音程】
音程>音程の垂直位置:下付き
音程>6/9の外観:9のうえに6(括線なし)
音程>メジャー7th>メジャー7thの外観:Maj7
音程>メジャー7th>メジャー7thの垂直位置:下付き
音程>メジャー7th>マイナーコードまたはオーギュメントコードの外観:Maj7
音程>メジャー7th>マイナーコードまたはオーギュメントコードの垂直位置:下付き
音程>メジャー7th>その他の音程のマイナーまたはオーギュメントコードの外観:明示する
【オルタレーションなど】
オルタレーション>ルートに対するスタック状のオルタレーションの位置:ルートに下揃え
オルタレーション>スタック状のオルタレーションの水平方向の整列:中央揃え
オルタレーション>add された音の外観:常に「add」を省く
オルタレーション>add された音とオルタレーションの分離:常にコンマを使用
ドミナントオルタードコード>オルタードコードの外観:alt
ドミナントオルタードコード>オルタードコード表示の垂直位置:下付き
モーダルコード記号>モード名の大文字/文字:モードとスケールを小文字にする
モーダルコード記号>モードの垂直位置:下付き
デザイン>スタック状のオルタレーションの倍率:50%
一見、設定項目が多いように見えますが、コードのクオリティーや音程に関する記号(Finaleで言うところのサフィックス)は、Doricoでは基本的に全て「下付き」に変更することとなり、これらの変更の殆どはそれに関するものです。
なお、Doricoの他の設定と同様、基本的にこのようなグローバル設定は必ず個別編集の前に行うことが鉄則です。個別編集の後にグローバル設定を変更すると、既に行った個別編集が崩れてしまう場合があるためです。
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ここまでのフォント設定と浄書オプションにおけるコード記号カスタマイズ機能は、Dorico Pro 5にも搭載されていたものなので、既にご存知の方も多いかと思います。
次回の記事ではこの続きとして、Dorico Pro 6にて新たに搭載された「コード記号のカーニングペアを編集」ダイアログと、大きく改善された「プロジェクトにおけるコード記号のデフォルトの外観」ダイアログでの設定について詳述します。
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