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執筆者の写真tarokoike

FinaleからDoricoへの乗り換え:移行時の問題点および対応(2)記号の移行不全

Finale上で入力した発想記号やアーティキュレーション、変形図形、コード・サフィックスなどの記号は、MusicXMLを介してDoricoを始めとした他ソフトウェアにある程度は移行可能ですが、少なくとも現時点では移行されない情報も多くあります。


実際にどのような問題が起こるかをを把握するため、これらの記号を並べたファイルをFinale上で作成し、これをMusicXML形式でエクスポートしたファイルを、DoricoとSibeliusにインポートする実験を行ってみました。


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【2024/10/10更新】この記事には関連記事があります。宜しければ以下をご覧下さい。

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(※インポート後は、最低限のページ・レイアウト調整を行っています。記号の位置はそのままです。)




記号のインポート結果


感覚的な評価ですが、「ほぼこのまま使える」と感じた結果は青い網掛け、「多少の修正で使える」と感じた結果は黄色い網掛け、「大きな修正が必要、要注意」と感じた結果は赤い網掛けで表示しています。


Dorico

Sibelius

強弱記号(f、pなど20種類)

基本的なfやp系は問題ないが、sf、sfzp、sfpp、sfp、rfが別の記号に置換されてしまう。

基本的なfやp系は問題なし。sfpp、sfpが別の記号に置換されてしまう。

速度標語(Presto♩=176など)

基本的に移行されるが、Rentaroフォントに特有のスウィング表記などは移行しない。

Doricoの結果に加え、文字の後に括弧が続いた場合はその括弧部分が移行されない。

速度変化(rit、a tempo、accel、rubatoなど)

・テキストは移行されるが、イタリックはキャンセルされ、ritやaccelには自動的に点線が追加される。

・周りの記号の配置によっては、入力位置も変わってしまう。

フォント・スタイルや入力位置も含め、ほぼ完璧に移行される。

発想標語(dolce、legatoなど)

・テキストは移行されるが、イタリックはキャンセルされる。

・周りの記号の配置によっては、入力位置も変わってしまう。

フォント・スタイルや入力位置も含め、ほぼ完璧に移行される。

演奏指示(8va、col legnoなど)

・Rentaroフォント使用部分、および8vaと8vb以外は、フォント・スタイルも概ね正確に移行される。

・位置は微妙に上にずれる。

・Rentaroフォント使用部分、および8vaと8vb以外は、フォント・スタイルも位置も概ね正確に移行される。

リハーサルマーク

周りの記号の配置によっては、実用的でない位置に移動されてしまう。

やや位置調整が必要だが、概ね実用的なレベルで移行される。

変形図形:スラー、クレッシェンドなど

スラー、クレッシェンドは移行されるが、trの波線や括弧ツールは移行されない。

Doricoに同じ。

変形図形:ギターベンド

音としては移行されているが、記譜表現は移行されない。

ギターベンドはカーブ矢印が山型スラーに変換されて移行される。

変形図形:線形

rit.以外の線形が移行されない。ダウンボウなど全く移行されない記号もある。

全ての線形が移行されない。ダウンボウなど全く移行されない記号もある。

アーティキュレーション

ボウイング、スナップ・ピチカートなど一部の記号が移行されない。

スナップ・ピチカートなど一部の記号が移行されない。指番号が全く移行されない。

アーティキュレーション積み重ね

アーティキュレーション積み重ねは再現されるが、指番号がマージされてしまう。

アーティキュレーション積み重ねは再現されるが、指番号が全く移行されない。

アーティキュレーション積み重ね+スラー

指番号がマージされた状態だが、衝突は自動回避されている。

指番号が全く移行されない状態だが、衝突は自動回避されている。

コード・サフィックス

・テンションの積み上げは保持されるが、Doricoの解釈で再表記される。

・各要素の配置は変わってしまう。

・C+(add#9,b9)のみはコードサフィックスとして認識されない。

・テンションの積み上げは保持される。

・概ねFinaleの表記通りに再表記される。

・各要素の配置は変わってしまう。

・C+(add#9,b9)のみはコードサフィックスとして認識されない。

上記でも特に要注意なのは、強弱記号のように一見正常にインポートされているように見えて実は別の記号に変換されている場合もあることです。これらは上記の問題を認識していないと、見落としてしまう危険性が高そうです。



記譜用フォントによる結果の違い


Finale日本語版の標準記譜用フォントはKousakuですが、v27ではSMuFLフォントとして新たにデザインされたFinale Maestroが搭載されました。


DoricoもFinale v27と同様、SMuFLフォント対応の製品です。なのでFinale v27からエクスポートする際に記譜用フォントをKousakuからFinale Maestroに切り替えた際に違いが出るかを見てみました。


結論としては、Kousakuで作成したファイルはFinale Maestroに変換せず、Kousakuのままエクスポートするのが良さそうです。今回使用したテストファイルでは、以下の差が生じました。


◆発想記号の演奏指示「8va」「8vb」

  • Kousakuでは8vaが別の音楽記号の組み合わせになる。

  • Finale Maestroでは全て通常のテキストになる。


◆アーティキュレーション

  • KousakuファイルをFinale Maestroに変換してからMusicXMLでDoricoに移行した場合、標準の指番号が移行されなくなる。

  • Times New Romanイタリックの指番号は移行される。


MusicXMLのバージョンによる結果の違い


最新規格であるMusicXML 4.0を搭載したFinale v27は、MusicXML 3.1以前しか搭載していないFinale v26よりも良好なエクスポート結果を得られる可能性があります。


しかし記号類に限って言えば、同じファイルをv27とv26からそれぞれMusicXMLでエクスポートしてDoricoにインポートした結果は全く同じでした。


MusicXMLのフォーマットによる結果の違い


Finaleでは、MusicXMLのエクスポート時の形式を、圧縮MusicXMLファイル、非圧縮のMusicXMLファイル、XMLファイルの三つから選ぶことができます。


今回のテスト・ファイルでは、3種類のファイルをDoricoにインポートした結果は全く同じでした。なので、これは最も新しく提供された形式で、ファイル容量の少ない圧縮MusicXMLファイルを選択するのが良いかと思います。


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なお、今回はMuseScoreでのテストも行っていますが、弊社としてはMuseScoreはその性能を高く評価するものの、信頼性や将来性に疑問を感じるため、少なくとも業務使用に関してはFinaleの移行先としてMuseScoreはお勧めしていません。


そのため本稿ではMuseScoreについて敢えて取り上げませんが、そのテスト結果はDoricoやSibeliusに匹敵し、時に凌駕していたということのみ、ご報告しておきます。

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