既存の和音からコード記号を生成する機能:Dorico vs. Sibelius
- tarokoike

- 7月23日
- 読了時間: 6分
更新日:7月27日
前回記事「Doricoでコード記号から伴奏トラックを自動作成する方法」の逆で、今回は既に入力された和音からコード記号を生成する機能に注目し、これについてDoricoとSibeliusで生成結果を比較してみます。
【目次】
2.生成結果の比較
2ー1.メジャー/マイナー系コード
2ー2.7th系コード
2ー3.dim/Aug系コード
2ー4.sus系コード
2ー5.その他のコード
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1.コード記号を生成する機能
Doricoでは範囲選択後に右クリックで「コード記号とコードダイアグラム>選択からコード記号を生成」、Sibeliusでは範囲選択後に「テキストタブ>プラグイン>コード記号の追加」にて、それぞれ1回の操作で複数の和音に一斉にコード記号を追加することができます。

それぞれの製品では、コード記号の生成を実行する直前に、その処理方法の詳細を設定するためのダイアログが表示されます。
SibeliusよりもDoricoの方が設定項目が多く、対象となるエリアにある音符の音価に応じてそれをコード記号の生成時に考慮するかしないかといったことも含め、場合に応じて生成の精度を高めるオプションが豊富に用意されています。


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2.生成結果の比較
今回の実験では、以下のようなテストファイルをFinale v27で作成し、コード記号だけを削除したMusicXMLファイルをDoricoとSibeliusに読み込ませ、それぞれのコード記号生成機能を適用してみました。

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2ー1.メジャー/マイナー系コード
メジャー系およびマイナー系コードについては、いずれの製品も、#5や♭5、#11thや13thなどのテンションも含めて全て期待通りのコード記号が作成されました。


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2ー2.7th系コード
オルタード・テンションの種類や組み合わせが多い7th系コードの場合も、Doricoでは全て期待通りのコード記号が作成されました。

一方、Sibeliusの場合は、若干怪しげなコードが生成される場合がありました。

どうしてこのような解釈がなされるかは不明ですが、Sibeliusの場合は独自のAIで制御されたこの機能の学習リソースが現時点ではこうしたジャズ系のブロック・コードに対応していないらしく、それが一因となっているのかも知れません。※
※Joe Plazak (PhD) & Néstor Nápoles López (PhD): "Data-driven workflows within Sibelius", JUNE 22, 2023
しかしとにかく、そういう解釈の可能性があるということを予め知っておけば、実際に使用する際に実用的でない表現を使ってしまう恐れは軽減されるかと思います。
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2ー3.dim/Aug系コード
Doricoでは、Cdim7でBダブルフラットをAと異名同音で表記した際、これがテンションの13thと認識されてしまうようです。

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2ー4.sus系コード
Doricoでは問題は感じられません。Sibeliusでも概ね問題ありませんが、♭9thなどのオルタード・テンションが使用された状況下において、やや複雑な解釈がなされる場合があるようです。

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2ー5.その他のコード
最後に、転回形やハイブリッド・コード、omit系など雑多なものをいくつか取り上げて試してみました。
E/CやCm7(omit5)などは少々無茶振りだったかも知れませんが、DoricoもSibeliusも、全体的にそれほど大きな違和感のないコード記号を生成してくれているかと思います。
なお、57小節目のC/Gについては、Doricoでは初期設定で「C」と解釈されますが、これは「選択からコード記号を生成>転回形を検出」でベース音の最低域を初期設定のFからAに変更することで、「C/G」と解釈されるようになります。

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3.この機能の活用方法は?
既存の和音からコード記号を生成する機能というのは、その逆(コード記号から音符を生成する機能)と比べると、楽譜作成ソフトウェアの機能としては需要が少ないかも知れません。
というのは、楽譜作成ソフトウェアのユーザーは基本的に一定水準の音楽リテラシーを持っている人が多く、もし複雑な響きの和音を書く場合、それはある程度意図的であることが多いように思えるからです。
その場合は既にコードの構成音や各音の機能は念頭にあるので、それをコード記号という形で譜面上に視覚化する際、結果の妥当性が不確かな自動生成機能に頼る必然性はあまり高くありません。
既存の和音からコード記号を生成する機能というのは、もしかしたら他人が書いた曲のハーモニー構造を大雑把に分析するといった時に役立つような気がします。
下の譜例は有名なクラシック・ギター曲「アルハンブラの思い出(Recuerdos de la Alhambra)」にDoricoのコード記号生成機能を適用したものですが、アルペジオを主体としたこの曲のようにコード感が明確な場合、コード記号の自動生成はある程度の実用性が期待できそうです。
このコード記号を取り出せば、例えばこの曲にストリングス伴奏を追加するといったアレンジ作業が多少は省力化できるかも知れません。

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Dorico Pro 6でコード記号のカスタマイズに関する機能が大幅に進化したことをきっかけに、「ではライバル製品であるSibeliusの現状はどうなんだろう?」といった疑問も生じ、この2ヶ月間ほどはDoricoとSibeliusのコード記号関連機能について集中的に調べては、その結果をブログにまとめて来ました。
これまで、楽譜作成ソフトウェアの主要な機能は、五線上に音符や休符を配置していくことでした。
コード記号に関する機能はそれとは別体系と言えますが、これは楽譜作成ソフトウェアが今まで主であったクラシック系を超えてポピュラー系を含む他ジャンルにユーザー層を広げていくために重要な機能と思います。
ユーザー層が広がり市場が大きくなれば、それだけ楽譜作成ソフトウェアの開発も進み、より高性能な製品の登場は、音楽文化の発展にも寄与する可能性があります。
その意味では、DoricoやSibeliusのコード記号に関する機能は、もっと分かり易く、使い易くなって欲しく、今後の動向には注視したいと思っています。
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